保健師コラム
第8回 食後の眠気、それって血糖値スパイクかも!?
皆さん、こんにちは。保健師の吉川です。
つい先日、私は人生初の北海道旅行へ行ってきました。
旅行前から「るるぶ」やSNSだけでなく、北海道エリアの社員さんからもおすすめのお店も徹底リサーチ。満を持して北の大地を踏みしめた時には、おなかが盛大に鳴りました。ジンギスカンに味噌ラーメン、お寿司に海鮮丼、そしてスープカレーに〆のパフェ…ソフトクリームも…!と、この旅行で全部食べてやる!と意気込みすぎて朝ごはんを抜いていたのです。(保健師にあるまじき行為ですが、今回はご愛嬌でお願いします)空港に着いて早速食べたお寿司が鮮度も抜群で最高でした。しかし、そのあと急激な眠さとだるさに襲われて、ホテルチェックイン後に少し休むはずが爆睡。気が付けば夜も更けていました。せっかくの旅行なのに、もったいないことをしたと大後悔です。
仕事中にも、食後にこういった「抗えないような眠気」が襲ってくることはありませんか?
それはもしかして、血糖値が乱高下している「血糖値スパイク」かもしれません!
そもそも、食後にうとうとしてしまうのは、食べたものを消化するために血液が胃や小腸に集中することで、脳への血流がやや減ってしまうから(脳の酸素不足であくびが出たりします)なのですが、それ以外にも血糖値が急激に上がったり下がったりするからなのです。
食事をすると、栄養として吸収された糖分(エネルギー源)が血液に乗って全身をめぐります。血液中の糖分の量(血糖値)が上がると、それを体の細胞や筋肉に取り込んでくれるホルモン「インスリン」がすい臓から分泌されます。それにより、結果として血糖値が一定の数値まで下がる仕組みが私たちの体の中で繰り広げられています。
通常ですと、青いグラフのように血糖値はゆるやかに上昇して、ゆるやかに下がっていくのですが、ドカ食いや炭水化物中心の食事となると、赤いグラフのように血糖値がグイっと急上昇し、すい臓が驚いていつもよりたくさんのインスリンを分泌します。すると血糖値が急降下してしまい、この時に強い眠気やだるさを感じやすいのです。旅行初日の私も朝ごはんを抜いて炭水化物である寿司をドカ食いしたのでこの血糖値スパイクが起きていたのだと考えられます。
この血糖値スパイクは、一時的な眠気やだるさだと思いがちですが、実は侮れません。
①血管へのダメージ大
血糖値が急に上がると、血管の内皮細胞に負担がかかり、炎症や酸化ストレスを引き起こすことがあります。これが動脈硬化の始まりです。
②インスリンの過剰分泌
急上昇した血糖値を下げようと、すい臓からインスリンが大量に分泌されます。すると今度は血糖が急降下し、「低血糖」状態に。
そしてこの低血糖は「空腹感」を引き起こすため、またドカ食いしてしまう、といった悪循環に陥りやすいのです。
③将来的な病気のリスク
血糖値スパイクを日常的に繰り返すことで、「2型糖尿病」や動脈硬化・心筋梗塞・脳卒中、そしてアルツハイマー型認知症のリスクが高まります。
また、食後に血糖スパイクが起きているかどうかは、普段の健診結果では、なかなかわかりません。健診の時は空腹時に採血するため、血糖値も元に戻っていることが多いのです。 日本では推定10人に1人はこの血糖値スパイクの人がいると言われています。食後にどうしても眠くなることが多い人は、一度この血糖値スパイクを疑ってみてもよいかもしれませんね。
予防のための実践ポイント
- 朝食は抜かず、3食バランス良く食べる
朝食を抜いて昼にドカ食いすると、食後に高血糖になりやすいです。 - 食物繊維(野菜等)を最初に食べる
まずは糖質の少ないおかずから食べることで、血糖値がゆるやかに上昇し、インスリンの過剰分泌を防げます。 - よく噛んでゆっくり食べる
よく噛めば、血糖値の上昇もゆるやかになります。また、満腹感も得られ、食べすぎ防止にもなります。 - 白米は玄米やもち麦などに置き換える
白米・パン・うどんなど精製された糖質は吸収が早く、血糖値を一気に上げやすいです。 - 間食はナッツ・チーズ・ヨーグルトなど低GIのものを選ぶ
GI…ある食品を食べたときに、血糖値がどれくらい上がりやすいかを数値化したもの
GI値の分類 | 特徴 | 例 |
---|---|---|
70以上(高GI) | 血糖値が急に上がりやすい | 白パン、白米、じゃがいも、うどん、せんべい、砂糖、甘いジュースや微糖コーヒー |
56~69(中GI) | やや上がりやすい | 玄米、もち米、ライ麦パン、肉、魚 |
55以下(低GI) | 血糖値がゆるやかに上がる | 雑穀米、全粒粉パン、そば、豆類、野菜、果物、ヨーグルト |
一生好きな食べ物を食べ続けるには、「食後の血糖値の山」を高くしない(スパイクにしない)ことが重要です。先ほど説明に出てきた「インスリン」というホルモンは、体の中で無尽蔵に作り続けられるものではありません。血糖値スパイクが日常的になると、すい臓が疲れて「インスリン」の分泌が悪くなってしまい、結果として糖尿病になってしまうのです。食べ物の種類(食物繊維の豊富なもの)や食べ方(順番など)を工夫することでこの血糖値スパイクは予防できますので、将来糖尿病にならないためにも、ぜひ実践してみてくださいね。